マニエリスム
Ⅰ.マニエリスムとは何か
極端に寓意と技巧を凝らした、反古典、反ルネサンス的な芸術運動
語源:マニエラ(maniera) 手法、技巧
技巧と様式に拘泥する故の模倣の連続⇒「マンネリズム」
代表作家:ミケランジェロ、ブロンツィーノ、アルチンボルド、エル・グレコ、パルミジャニーノ、ヤコポ・ダ・ポントルモ
Ⅱ-1.マニエリスムの様式(形態としてのフォルム)
- セルペンティナータ(蛇状曲線的)、歪み
①ミケランジェロ (伊 1475~1564) 『ラオコーン』
葛藤(プシコマキア)2つの感情に引き裂かれる⇔古典―感情の理性的調和
②フランチェスコ・サルヴィアーティ(伊 1510~1563) 『ダヴィデのもとに赴くパテシバ』
空間の歪み
行きたいという欲望と、行ってはならないという禁忌が生み出すアンビバレントな感情⇒捩れ
顔の方向と手の向きが逆に
③パルミジャニーノ (伊 1503~1540)『凸面鏡の自画像』
象全体の奇妙な歪曲、拡大
病的に大きな手、メランコリックで虚な顔つき
技の巧みなところをきわみまで試してみようとして、彼は或る日床屋の半ば盛り上がった鏡に自分を映して自画像を描きはじめた。この鏡の凸面には天井の桟(えつり)なども丸くみえ。ドアやたてもののすべてが奇妙な工合に後ろに退いてゆくような珍奇(ビザール)さが映し出された。彼はその面白味(カプリッチョ)のために、これらすべてを写し出そうと考えた。そこで彼は木の丸板を半ば盛り上るように割って、その鏡と同じ大きさにし、そのすばらしい技術をもって鏡の中に見た一切のものを忠実に写した。
珍奇(bizarre)、奇想(カプリッチョ)的なもの、そこからうまれる「驚き」を好む傾向
- 引き伸ばし
④エル・グレコ (西 1541~1614)『ヨハネの幻視』
異様に引き伸ばされた身体
曲げるためには引き伸ばす
⑤パルミジャニーノ 『子イエスと天使たちのもとなる聖母』
異様に長く白い首
一点に集中しない、ばらばらに向けられた視線
⇒回転する視点(cf.サルヴィアーティ②)
Ⅱ-2.マニエリスムの様式(内容としてのフォルム)
- 寓意、象徴
⑥ブロンツィーノ (伊 1503~1572)『愛の寓意』
頭を掻き毟る女―嫉妬
薔薇の花を投げようとしている子ども―快楽
蜂の巣をもった女―欺瞞
ヴェールを剥ぎ取ろうとする老人―時(時は全てを露呈させる)
老人を手伝って、ヴェールをもち上げようとする女―真理
あるものを全くかけ離れたもので寓意的、象徴的に表象化しようとする
- 相反するもの、全く異なるものの結合
⑦アルチンボルド(伊 1527~1593)『ウェルトゥムヌス』
野菜を組み合わせることにより人間を描くという、全く異なるものの結合
⇒cf.プシコマキア
ボヘミア王ルドルフ2世
ヘルマフロディトスイメージの流行
- 否定的感情(憂鬱、不安、恐怖、死)
⑧モンス・デジデリオ (仏 1593~???)『爆裂する教会』
廃墟 幻想
ブルトン『魔術的芸術』での紹介
- 夢、綺想、幻想
⑨ジョルジョ・ギージ (伊 1520~1582) 『ラファエッロの夢』
ミメーシス⇔expression(外へ押し出す)
内的世界を外に表象化する
⑩ボマルツォの怪物庭園(1572)
Ⅲ.マニエリスム的精神構造
不調和、不安、憂鬱、自閉、孤独、偏執、驚異、類似・結合への希求
地下水脈において途切れることなく流れ続ける反動的精神構造
Ⅳ.ロマン主義、象徴主義、デカダンス、シュルレアリスムら反古典的芸術との通底
⑪フランシコ・デ・ゴヤ (西 1746~1828)『理性の眠りは怪物を産む』
ロス・カプリチョスという一群の綺想作品
近代絵画の始まり
⑫マン・レイ(米 1890~1976)『アングルのヴァイオリン』
⑬歌川国芳(日 1797~1861)『みかけハこハゐがとんだいゝ人だ』
「古典主義以前であると、古典主義以後であると、あるいは何らかの任意の古典主義と同時期であるとを問わず、古典主義に背馳するあらゆる文学的傾向」クルティウス